小説 Θεομηνία(セオミニア)
Summary
★Pixiv企画海が好き!2025に参加させていただいた作品です。
★サガとカノンの兄弟を中心に、海将軍筆頭シードラゴンと七将軍がわいわいします。
★コメディですが、海界とサガ&カノン兄弟への愛を込めたつもりです。
✦Θεομηνία — Theomēnia — Japanese Original Text
Θεομηνία(セオミニア)
✦ ✦
サガはめずらしく浮き足立っていた。
いつも教皇アイオロスの補佐として、時にいかめしく、時に神聖な気配を漂わせている静かな男。その彼が、足元に羽が生えたように弾んでいる。
それもそのはず。明日からサガは、聖域十二宮の面々とともに夏休みを取る。そして聖域を離れたスタフィーリア渓谷に、2泊3日のぶどう狩り旅行に行くのだ。そして、重責を負う黄金聖闘士のサガにとっては、数少ない楽しみのひとつである。
サガは教皇宮での仕事を終え、住居のある双児宮に帰宅した。
家の玄関前には、置き配の段ボールがある。注文していた旅行用の菓子とつまみが届いたのだろう。サガは段ボールを持ち上げ、玄関扉を開けた。
「おかえりー」
リビングから、テレビの笑い声の音声とともに、双子の弟カノンの声がした。
「いたのか。いたなら、宅配を受け取ってもらえると助かったんだが」
「知るか。俺だって忙しいんだよ」
サガがリビングに入ると、寝椅子に持たれて寝そべるカノンの姿がある。そばのサイドテーブルには、食べ掛けのポテトチップと缶ビール。サガは吐息した。まだ夕方の4時だった。
「カノン、今夜の夕食は缶詰でいいな。私は明日のぶどう狩りの荷造りが、まだ終わっていない。みんなに配る用の菓子も詰めんといかんし」
「適当で。──しかし毎年毎年よく飽きないな、ぶどう狩り。場所も同じだろう?」
「それがいいのだ。普段苦楽をともにする仲間と、周囲を気にせずにくつろぐ。それがなによりの休暇ではないか」
カノンのくさすような言葉にも、サガはにっこりと満面の笑みで返した。本当に嬉しいのだった。
「くだらねえ、小学生かよ」
カノンは憎まれ口を吐いた。
そんなとき、テレビが天気予報を流し始めた。
「明日のギリシャ全土は大荒れとなる見込みです。観測史上最大級の暴風雨が接近中。アッティカ地方でも大雨・洪水への厳重な警戒が必要です」
サガとカノンはテレビ画面に視線を注いだ。サガの口からは「なんと……」と驚きが出る。
「昨日まで雨雲の様子は問題がなかったが」
サガはそう言いながら、次に画面に映された雨雲の予想配置図を、睨むように見る。巨大な雨雲が、渦を巻いて、エーゲ海に接近している。
「確かに類を見ない規模の雨雲だ。この気象、まるでセオミニアではないか」
「神の怒り(セオミニア)? 大袈裟な」
カノンはそう笑い飛ばしたものの、確かにテレビ画面の巨大雨雲の様子は、緊張を走らせる禍々しさがあった。
サガはすっかり神妙な顔つきになり、呟く。
「ぶどう狩りどころではないな。近隣の水害の予防が必要だし、被害が起きた場合の救助のために、我々は待機するべきだろう」
カノンは小声で言う。
「真面目だなあ…まったく。休暇はもう取ったんだろう? 居残りに任せりゃいいのに。残ってるのも黄金聖闘士なんだから……」
「ん? なんだ?」
「いや。──俺、ちょっと出るわ」
カノンは寝椅子から起き上がった。サガは「もう今夜から風が強くなってもおかしくない。あまり遅くなるなよ」と出ていくカノンの背に向かって告げる。
カノンは「おう」と手を振り、玄関へ向かった。
✦
「エーゲ海へ接近する雨雲を、消滅させる?」
海底神殿に召集された七将軍。その中で、海魔女のソレントが口火を切ってカノンに問い掛けた。
「そうだ」
カノンは、シードラゴンの鱗衣を身に纏い、七将軍筆頭の台座から、六人の海将軍に向かって答える。
海将軍たちはどよめいた。
「太古より、海と雨は密接。雨もまたポセイドン様のご意志。雨乞いはしても日照り乞いは、我ら海界の領分ではない」と、クリュサオルのクリシュナ。
「地上にとっては災害でも、神の目からすれば暴風雨も天の摂理。無闇に止めれば生態系に影響が出る。海界の我々からすれば、関与の範囲外だ」と、シーホースのバイアン。
「そうだ。蜂を駆除して花が絶滅する。受粉が途絶えるということは、植物の大半の滅びだ。それは大地の死。それをおまえはしろというのか」と、スキュラのイオ。
「生態系への人的介在がどれほど自然を破壊するか、まだ学び足りないようだな」と、クラーケンのアイザック。
「難しいことはわかりませんが、これはあんたの都合なんじゃありませんか? ──シードラゴンのカノン様」と、リュムナデスのカーサ。
カーサの言葉に、海将軍は一斉にカノンを見た。
カノンは「ふ」と笑みを漏らす。
「聖域ではな、明日から大地の吉凶を占う大規模な式典が催される。古来、この式典は雨天が吉兆、晴天は凶兆とされているのだ。聖域の神官たちは総出で雨乞いの最中。しかも、観測史上最大級の暴風雨の接近と知って勝利を確信し、雨乞いも止めたところだ」
「はあ、それが?」
ソレントはやや呆れた顔でカノンに問う。しかしカノンは構わずに続けた。
「いいか。雨乞いに失敗したとなれば、聖域の女神の影響力は海界に届かないと示すようなもの。ポセイドン様が敗戦で封印されているいま、少しでもポセイドン様の権威を示すよい機会になろう」
「ほう!」
クリシュナが真面目な表情で食いついた。カノンは追い風を感じて畳み掛けた。
「聖域が雨乞いし暴風雨になり、それを海界が止めたとなれば、大地と海界の和解だ。これは、人間たちがポセイドン様に感謝し、その偉大さを知る契機──」
「その図式は、確かに我々に好印象をつくるだろう──だが……」バイアンがそう同意し、噤んだ言葉を、隣のイオが続ける。「これだけの暴風雨の熱量だ。完全に消滅させることは、それこそ神の御業でもない限り、我々海将軍でも不可能に近い」と。
それらの懸念を、カノンは高笑いで伏した。
「はっはは。式典はたかだか2泊3日──いや、3日の間だ。それが過ぎれば、雨が降ろうと風が吹こうと何の問題もない。地上の災害は聖闘士どもが苦慮してでも防ぐだろう。3日の間、暴風雨を止め、晴天を維持するだけよ。おまえらの力を持ってして、な」
海将軍たちは、おのおの暴風雨を止めるための策を考え始めた。シードラゴンも含め、七人の海将軍の力を合わせれば、確かにできないことではない。──しかし。
ソレントが言う。
「確かに、その理屈なら我々に利はあっても非はないだろう。聖域が雨乞いして暴風雨がやって来たなら、むしろそれを止めるのが生態系を正す行いと言えよう。」
カノンは、めずらしいセイレーンの同調に、つい大きく頷いた。
「ただ──」
すかさず、ソレントは語調を強める。
「それは本当に、ポセイドン様の意にかなうのか? シードラゴンよ」
海将軍たちは、一斉に台座に立つカノンに視線を浴びせた。
カノンはしんと静まり返った空気の中、重々しく目を閉じ、眉を寄せた。
「海将軍よ──私も聖域と海界の仲介者として思うのだ。見ろ、聖域のやつらを。なんだかんだと、全員自分勝手に良かれと思って暴走する人材ばかりだ。要は一匹狼の群れ。そんなやつらが勝利を収めるのがこの世だ」
海将軍たちは、何の話かといぶかしげにカノンの声に耳を傾ける。
カノンは熱を込めて語った。
「いいか。おまえたちは行儀がよすぎる。礼儀も重んじすぎる。できすぎているんだ。見方を変えれば、まるで指示待ちの木偶の坊だ。だから負けるんだよ。自分の頭で考えろ。ひとりひとりが経営者目線を持て。ここは若手が活躍する風通しのよい海界だ。もっとやりがいを感じろ。俺たちの頑張りこそが、アットホームな海界を支える。それこそが勝利の秘訣なんだよ」
「やりましょう!」
イオが拳を挙げていきり立った。その目は輝きに満ちている。
「そうだ。若い人材が活躍する、風通しのよい場所。それが海界だ」と、バイアンも続いた。
「ポセイドン様が眠りについておられるいま、俺たちは俺たちにできることをする──か」とクリシュナ。
「まったく、おまえは俺たちを焚き付けるのがうまい。そこだけは、安定のおまえだな」と、アイザック。
「──きみたちが同意するなら、止めはしないが。わかった。私もやろう」と、ソレント。
「おや、セイレーンも賛同か。では俺も、流れに乗っておくかな」と、カーサ。
カノンは笑みをもらした。
その笑みは語っていた。
(まったく純粋で、ちょろいやつらだ。聖域にそんな式典、あるか)──と。
カノンの頭の中には、──数日後に、今年もまた去年のように、旅行から帰って楽しいぶどう狩りの思い出ばなしを語る、兄サガの笑顔がはっきりと浮かんでいた。
✦
ギリシャへ向かって勢力を強めていた雨雲は、その夜未明、動きを鈍くし始めた。
クリシュナは、坐禅を組んだまま海界を出で、遥か上空、雲の高さまで浮かび上がった。そこで体を真一文字に貫く全身のチャクラを開き、すべてを焼き尽くす大いなる光によって、雨雲の取り込む水分を蒸発させ続けた。
日の暮れる時刻、ギリシャからはもうひとつの日が空へ昇って行くように見えたという。
イオは、スキュラの鱗衣に宿った6つの聖獣の精を小宇宙で具現化し、風を押し戻す荒技に取り組んだ。猛獣の爪のような空気の流れが、荒ぶる風を包み込み勢いを奪っていく。風と風のぶつかり合う激しい音が、エーゲ海に響き渡った。
バイアンは、海底に止まり、地底から潮流に干渉した。海水の蒸発を留めるためだ。潮の満ち引きを操作するほどの力は、地底の空気を操り、海流を巨大な水柱に変えるバイアンといえども、簡単なことではなかった。エーゲ海では、馬のいななきのような音とともに、立ち上がる水柱が馬の上半身と魚の下半身を持つ伝説の神獣のごとく目撃された。
アイザックは、地上に出ると、空気中の水分を結晶化させた。結晶化した水分は、更に分解され、消滅する。身を削るようなアイザックの技だった。結晶した水分が消滅する時、それはオーロラのような光の幕を作った。アテネでは、オーロラが観測されたという。
ソレントは海界に留まり、セイレーンの横笛で、雨乞いの旋律を逆に演奏した。これまで、極秘とされた雨乞いの楽曲の秘密が、ついにつまびらかにされたときだった。海界から響かせているにもかかわらず、その笛の音は海上に届き、更に大気に混じって天に向かった。海から聞こえ、空へ舞う美しい歌声をした人魚の姿を、人々は噂した。
カーサは、笛を吹くセイレーンの隣で、美しい双子の巫女の幻を作り出した。雨乞いの効果を高めるために行う、神々への捧げものだった。本来は本物の人間の巫女を使うが、命を捧げる必要があるため、カーサが幻影で行う。また、彼の幻影は、神にとって人間の巫女の命に匹敵する値打ちと認められていた。海界の秘技が、天と地を揺るがし続けた。
「うむ」
カノンはアニスの香りのする透き通ったリキュールを傾けたあと、そう呟いた。
海底神殿の奥、ポセイドンの間の控えに居座り、寝椅子に身を預けていた。
「シードラゴン様、フェタチーズとタラモサラタをお持ちしました」
マーメイドのテティスが、給仕係りのように皿を乗せたトレーを持ってやって来る。「おいとけ」と、カノンはそちらも見ずにテティスに指図する。
テティスは睨みつけるように、カノンを見た。
「シードラゴン様は、お出ましにならないのですか」
「私はここで、テレパシーにより聖域の同行を監視している。ほかに誰もできないだろう。聖域に通じているのは、この私だけなのだから」
カノンは、テティスを睨み返すようにいなした。
テティスは丸いトレーを両腕に抱え、暗い眼差しをして、じっとカノンの横顔を見つめ続ける。
「──日が沈む頃には、気圧まで変化したそうですね。雨雲は、勢力を弱めているようです。ニュースで言ってました」
「そうか。ははは、明日は晴天だ」
陽気にそう言うカノンに、テティスは疑念を振り切れなかった。
しかしテティスには、もうほかに手がない。黒い疑念と悲しみを抱えながら、テティスはカノンの御前をあとにした。
「ウワーッハッハッハッ!」
カノンは、海底神殿の奥の台座に一人残り、高笑いをした。
「あいつら、さすが。やればできるものじゃないか。さしずめ俺は、神といったところか」
そんな声がカノンの独り言として、テティスの耳に響いたのだった。
✦
「アイザック、アイザック! しっかりしろ!」
イオが浜辺で片膝を付くアイザックに気付き、駆けつけて両肩を揺すった。アイザックは息を切らし、イオの手を払うように立ちあがろうとする。
「まだだ。まだこれからよ──」
アイザックは、震えながら立ち上がった。みるみるとあたりの気温が下がり、空気中の水分が氷の結晶となっていく。
空のオーロラは、再び輝き始めた。
「なんという美しさだ…!」
イオは天空を見上げ、感嘆の声を上げた。
「見惚れている場合か、イオよ。おまえ、暴風を食い止めるのはどうした」
「まだやるのか?! もう一昼夜経過しているぞ」
アイザックはもう語らなかった。登り立つような気迫が、その背を一層広く大きく見せている。
イオは息を呑んだ。スキュラの鱗衣に宿る聖獣たちは、だいぶ弱って来ていた。イオ自身も、消耗を実感している。しかし、アイザックにその背を見せられて、引き下がれるイオでもなかった。
「わかった。俺も、戻る!」
イオは再び、天高く舞い上がった。
──ポセイドン様……! ポセイドン様の、御ために!
「うおおおおおおおおお!!」
──海から立ち上がる水柱の勢いが、弱まっている。
上空から地中海を見下ろすクリシュナは、バイアンの小宇宙が少しずつ揺らいでいることに気づき始めた。以前、馬のいななくような摩擦音を立てて水柱は上がり、潮流はバイアンの起こす気流の変化とともに流れを変えている。
しかし、クリシュナにはわかった。
(バイアン、お前、なんという無茶を……!)
クリシュナは、テレパシーでバイアンに呼びかけた。
(バイアン、少し休め。倒れる前に)
即座に、バイアンは応答する。
(黙れ。お前こそ、太陽光を模した熱が下がっているんじゃないか)
バイアンらしい、冷笑的な皮肉が返った。しかし、その声はわずかに、震えている。
クリシュナはさらに呼びかけた。
(私がおまえの分まで自分の役割を果たす。いいから、少し休め。今の潮流は向かい風だ。大いなる水の圧力を受け、通常よりも小宇宙を消費するだろう)
「黙れ!」
クリシュナを威圧するように、海面から、ひときわ高い水柱が上がった。
「ここで退けるか。ポセイドン様のご名誉のため、ポセイドン様がいずれ君臨される大地のため、我らがやり遂げずになんとするか!」
バイアンの怒声は、一閃の気迫となって天のクリシュナに届いた。
クリシュナは、目を閉じた。
──そうか。ならば俺も、お前たちとともに。
(ポセイドン様……!)
(ポセイドン様ーーーーーーー!)
✦
「いやあ、一時はどうなることかと思いましたが。晴れましたな」
車中飲みの定番、ひまわりの種を炒った菓子を齧りながら、牡牛座のアルデバランは明るい声でサガに呼びかけた。
「うむ」と、軽快な笑顔でサガは答える。
黄金聖闘士たちを乗せた聖域のマイクロバスは、晴天のアテネを順調に走り抜けていた。
「まさかの奇跡よ。あの巨大な雨雲が、大西洋に押し戻されながら弱まって行くとは」と水瓶座のカミュ。
「フッ。カミュよ、まるでお前の技のようじゃないか。天からオーロラが降りているのを見たというニュースが、ネットを騒がしている」と、カミュの隣の席の蠍座のミロが言う。
「私はなにもしておらん。──神の御業かもしれん」
サガは、賑やかな車中の様子に目を細めた。
✦
「セイレーン様、少しお休みください!」
テティスは、一昼夜を超えて横笛を吹き続けるソレントに、ひれ伏すように願った。テティスの背後では、巫女の幻影を維持し続けるカーサが、ついに倒れた。
「リュムナデス様!」
テティスはひるがえってカーサに駆け寄る。
「海将軍が天候を操り始めてもう二日──さすがの海闘士も、相手が天候とあっては……」
テティスは海底神殿を振り返った。あの中では、祈祷と名目して、カノンが引きこもっている。
(ポセイドン様──! どうか我らを、お助けください)
そんな、海将軍たちが残った力を振り絞る二日目の夜だった。
──ポセイドン様ーーーー!
海闘士たちの捧げる祈りの声に、海底神殿の奥の間、女神アテナの壺に封印されたポセイドンは答えた。内から壺は揺れ、鈍く光る。そしてあたりの気圧を揺るがせた次の瞬間、光の玉が地上へ向かって壺から放たれた。
いま、観測史上最大とされる暴風雨の予報を知り、ギリシャに戻っていたジュリアン・ソロの元へ。
──ジュリアン・ソロ。我が依代。いま一度、我をその身体に宿すがいい。
✦
そのとき、海は騒ぎぬ。
小鳥はざわめき、魚は跳ね、
波は裂け、潮は逆巻きたり。
深き封ぜられし殿堂より、
神の御声、轟きて曰く──
「カノン! また貴様か───!」
ジュリアン・ソロの体を得、怒りの復活を果たした海皇ポセイドンは、海皇の神聖なる鱗衣に身を包み、三又の鉾を携え、鬼の形相で海底神殿へ飛び込んだ。
──ぐわああああああああ!
次の瞬間、三又の鉾の雷撃に打たれたカノンの叫び声が、海底神殿に響き渡る。
「海将軍らの、あまりに悲痛な呼び声。寝てはおれぬと目を覚ませば、なんたる──」
再びこの現し世に降臨した海皇ポセイドンの神々しい姿に、海底神殿に帰投した海将軍ら6名は、ひたすらに頭を下げた。──神の怒りに打たれ、地に横たわる一人を除いて。
「て、天候は……」
うつ伏せに倒れながら、カノンは呻き声を上げた。
片膝を付いたままのソレントが、横目でカノンに言葉を返す。
「この度の騒ぎは、我らの思いに免じて、ポセイドン様が神のお力で人間たちに類の及ばないようお計らいくださった。観測史上最大の暴風雨は文字通り消滅──生態系への影響もない。全てはご神慮」
それを聞き、カノンは無様に倒れたまま「フッ」と笑みを漏らした。
「この有様で何を笑う、シードラゴンよ」
アイザックがそう問いかけると、カノンは言う。
「このカノン、制裁には慣れている。この俺の痛み一つで天候を動かせるなら、安いもの──」
「は?」
バイアンとイオが、声を合わせて疑問を呈した。
「シードラゴンよ、まさかお前、最初からこれを狙って──?」
クリシュナが驚きに目を見開き、そして続けた。「一体なんのために、このような、神をも欺く大それたことを──」。
「葡萄……、葡萄が見えるな」
カーサが呟く。
「葡萄だと?」と、六人はカーサを見た。
「シードラゴンの頭の中は、葡萄でいっぱい。この世で最も大切だと、言わんばかりに」
訳がわからないと首を捻る六人をよそに、何もかもを見通している神ポセイドンは、吐息した。
「まったく、貴様ら兄弟には、何度も手を焼かされる。──これきりだぞ」
後日、スタフィーリア渓谷から、土産と土産話を山ほど抱えたサガが、笑顔でカノンの元へ帰って来た。頑丈なカノンは半日で神の怒りの雷撃から回復したものの、ベッドに横たわったまま、兄の帰宅を迎えたのだった。
(了)
✦End notes✦
お読みくださり、ありがとうございました。
AO3 Translation : 📎 English
二次創作(小説・イラスト):📎Pixiv
各種 SNS / まとめリンク:lit.link/amagaishuka

