敵対者の誘惑と、誰にも触れられない毒薔薇
Pixivの私の作品ページでは、ミアルバの短い小説を集めた「ミアルバ短編集」というシリーズをまとめています。
今回は、その第1作『君や来し』を紹介します。
◆ 概要:ミアルバ短編集の導入にふさわしい“はじまりの一作”
本作『君や来し』は、ミーノス×アルバフィカ(通称ミアルバ)の世界に触れる読者へ向けた短編集の一篇目として執筆しました。
私のミアルバの代表作『感情的認識批判』は4万字級の長編です。あまりにとっつきづらいので、初めて「気軽に読める」「作品世界の入口としての短編」を意識して挑戦した一作です。読みやすさと美学、そしてミアルバらしい緊張感と甘美さを、約3,700字の中に凝縮しました。
◆ 和歌と異界──構造の妙味
物語は、日本の平安文学『伊勢物語』に着想を得た構成となっています。導入に置かれる和歌──
君や来し 我や行きけむ おもほえず
夢かうつつか 寝てかさめてか
この和歌の余韻はそのまま、本作に漂う”夢と現の境界”を描く鍵となり、敵対関係にあるはずの冥闘士ミーノスと聖闘士アルバフィカの出会いに、禁忌の美しさを与えています。
ミーノスは美貌のアルバフィカを誘惑し、アルバフィカはその一瞬の口づけに抗いながらも震えてしまう──触れれば死に至る”毒の血”を持つ者が、自らの弱点を初めて自覚し、困惑する場面は、ただの恋情ではない“触れられなさ”の悲しみと悦びを象徴しています。
◆ 誘惑者と処女性──ミアルバという構図の典型
この短編では、アルバフィカの戦闘慣れした堅物さと、極端にうぶな面が際立ちます。
そして、そこに現れるミーノスは、本来任務でやってきたはずが、それはさておき関心を抱いたアルバフィカに早速コナをかける冥界の誘惑者。
「永遠の命を、私とともに生きないか」
という台詞に現れる耽美と悪徳の誘惑者像は、まさに“ミーノス”の典型的な描写。
ふたりの間には、恋愛に向かう理由も資格もありません。アルバフィカは孤独な毒の聖闘士であり、ミーノスは敵。
なのに触れてしまった。なのに震えてしまった──
この**「なのに」の連続こそが、本作の繊細な読後感**を形作っています。
◆ マニゴルドの介入──第三者が照らす関係の輪郭
また、後半の見どころとして挙げたいのが、アルバフィカの“回収”役として登場するマニゴルドの存在です。
ややコミカルで、しかし兄のように包み込む彼の登場により、読者は一度冷静な視点に戻され、アルバフィカの「変化」や「動揺」が際立って見える構造になっています。
この構造は、物語に”ふたりきりの夢”で終わらない現実味と、切なさを与える効果を発揮しており、
「夢だったのか、現実だったのか……」
というラストの和歌の再読に、深い余韻を添えています。
◆ こんな方におすすめ
- 悲恋の予感のある“異類婚姻譚”が好きな人
- ミアルバ(ミーノス×アルバフィカ)の”触れられなさ”に惹かれる人
- 古典文学の現代的な再解釈に興味がある人
◆ 本文はこちらから読めます(Pixiv)
──「これは夢か現か」
敵と味方。毒と吸血。誘惑と拒絶。あらゆる境界線の狭間で、ふたりは出会ってしまった。
ミアルバという組み合わせの核心に触れる、導入の一作としておすすめです。