──しつこくて、ちょっと不器用で、けれど愛しいミーノスの朝
シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を引いたタイトルにもかかわらず、引用性はほぼありません。
大事な人がとられてしまう、そんな悪夢を見たあとのそれぞれの行動。
ミーノス編。
◆ 概要:「悪夢」をきっかけに動く、ミーノスの七夕騒動
『夏の夜の夢』は、短編集第5作にあたるミアルバ小説。
聖域の薔薇園を舞台にした、冥界の裁判官ミーノスと、孤高の薔薇使いアルバフィカの──「なにも起きていない一日」を描いた物語です。
なにも起きない。
でも、朝目覚めたとき、悪夢の続きを払うように動いたミーノスの行動が、やがて読者に“ふたりの関係が少しだけ前に進んだこと”を予感させてくれます。
◆ ミーノスの「寝起き」とキャラクター造形
この物語の冒頭に描かれるのは、非常に人間くさいミーノスです。
- 夏の寝苦しさに苛立ち
- 風呂を沸かさせ
- 部下ルネに当日欠勤を宣言し
- 勝手に地上へ外出
この「身勝手な高位者」の振る舞いは、まさにミーノスというキャラの“怠惰なエレガンス”と“直情の感情性”を象徴しています。
そして、そんな彼の目的は──
「アルバフィカが他の誰かと恋をしている夢を見た」
──それだけ。
夢と現実をうまく区別できず、冷静な判断を失いながらも、思わず会いに行ってしまう。それがこの話の“導火線”です。
◆ アルバフィカの冷静と、無言の優しさ
ミーノスの唐突な訪問に、アルバフィカは冷たく応じます。剪定中の薔薇園で、鋏を手にしたまま、まるで邪魔者でも見るように。
しかし彼はその態度の裏に、殴る代わりに鋏を使わなかった優しさを見抜き、笑って去っていきます。
そして読者は、物語の終盤でアルバフィカの独白を通して知るのです。
この薔薇の園に入るのを許したのは、ミーノスだけだというのに
(その話だったら付き合うのに)
アルバフィカは、ミーノスの言葉の選び方、現れ方、タイミングの拙さに苛立ちながらも、**彼の“見る力”と“薔薇への感性”**を受け入れていたことがわかる。
ただ「もうちょっとだけ気づいてくれたら」。
そんな、あと少しの歯がゆさと、そこにこそ残っている“繋がりの兆し”が、この物語の静かな余韻を作っています。
◆ 「ミーノスは、鈍い」──けれど希望はある
ミーノスは、自分の欲望には忠実ですが、なぜアルバフィカがそこまで拒まないのかには思い至らない。
それが、彼の不器用さであり、同時に物語のユーモアと温かみの源でもあります。
アルバフィカは、それに怒りながらも、少しずつ歩み寄る準備をしている。
──それを「七夕の夜に、季節とともに感じる希望」として描いているのが、本作のとても良いところです。
◆ こんな方におすすめ
- ミーノスの“だめなところも愛しい”造形が好きな人
- アルバフィカの「拒絶と受容のはざま」の描写に萌える人
- 恋のはじまりの“予感”が好きな人
- 夏の朝の憂鬱と恋愛未満の関係性が好きな人
◆ 本文はこちらから読めます(Pixiv)
──恋が始まるとは、きっとこういうこと。
「気づかない」からこそ、まだ壊れない。
「気づけたら」きっと、きみに触れられる。
夏の気怠い朝に、夢の続きを会いに行く物語。