罪と赦しの冥界ラブコメディ
Pixivの私の作品ページでは、ミアルバの短い小説を集めた「ミアルバ短編集」というシリーズをまとめています。
今回は、その第2作『ペルセポネのサブスク』を紹介します。
◆ 概要:冥界を舞台にした、火花を散らすミアルバ
本作『ペルセポネのサブスク』は、ミアルバ短編集の第2作として書かれた、ちょっと苦くて、ちょっと甘い、冥界ラブコメディです。
ミーノス×アルバフィカ(通称ミアルバ)の関係性を、過去作とは異なる角度から描くことを意図しており、「内心ベタ惚れなのに全然優しくないミーノス」と「強がって見せてるけど心に傷を残したアルバフィカ」という、いびつで繊細なふたりの距離感が本作の肝になっています。
◆ 地獄の花園──冥妃の命令とふたりの儀式的すれ違い
冥妃ペルセポネの気まぐれな命令により、アルバフィカは冥界の第二獄を“魔宮薔薇の庭”に変える任を負います。かつて毒を宿していたその薔薇も、冥界では無毒化し、アルバフィカ自身も“誰にも触れられない毒”を失っています。
彼が7日に一度、ミーノスに花を届けに行く──という繰り返される儀式のような場面を通して、ふたりの間にある曖昧な牽制と無意識な期待が徐々に浮き彫りになります。
面紗の扱い、視線の強要、冷笑交じりの台詞──
冥界の裁判官ミーノスは、花を受け取る役目に徹しながらも、そのたびに心に波を立ててしまうのです。
◆ アルバフィカの内なる痛み──罪の意識と、赦しへの希求
物語の中盤、アルバフィカは亡き師ルゴニスの死に対する自責の念を語り出します。
「自分が犯した罪は、ただ戦ったことではなく、託されたものを受け止める覚悟のなさだったのかもしれない」──
そう気づいたとき、彼はミーノスにある問いを投げかける。
「私は、自分が生前犯した罪を知りたいのだ」
それは、ただの贖罪ではなく、本当の意味で過去と向き合い、許される準備をしたいという意志の表れ。
そしてその姿勢が、ミーノスの中にも眠っていた感情の引き金を引くのです。
◆ ミーノスの拗ねと苛立ち──わかりやすくない愛の形
この物語のミーノスは、いわば“ベタ惚れこじらせ系男子”。
興味を隠して冷笑し、挑発めいた態度をとりながら、実はアルバフィカの姿や言葉に毎回打ちのめされている。
「またきみに会えると思って期待した私が愚かだったのでしょうか」
「私はそんな人を相手にしたいのではないのに」
彼の言葉には、怒りと同時に失望、そしてどこか未練が漂います。
ところが、それを受けてアルバフィカが唐突にミーノスにキスする展開は、意外で、切なく、そしてちょっと笑ってしまうほどロマンチック。
この逆転は、短編集第1作『君や来し』でミーノスから仕掛けられたキスに対する、ミアルバ短編集的カウンターにもなっており、シリーズとして読んだときの奥行きも楽しめます。
◆ 軽妙なラスト──たどたどしい告白と、口実のない引き寄せ
アルバフィカの告白は、断言でも情熱でもなく、未整理な気持ちのまま、思わずこぼれた本音。
それに対し、ミーノスが「いいでしょう。私が教えて差し上げます。人を誘惑するとはどういう事か──」などと口実を得て迫るやりとりには、もはやラブコメの呼吸が宿っています。
冷たく見えて感情的なミーノスと、気丈に見えて不安定なアルバフィカ。
その関係のアンバランスさが、どこまでも冥界的で、どこまでも愛おしい。
◆ こんな方におすすめ
- 儀式的な反復の中で関係性が変化する物語が好きな方
- ミアルバの「不器用な愛情表現」に萌える人
- 罪と赦しをめぐる静かな対話が好きな読者
◆ 本文はこちらから読めます(Pixiv)
──毒のない薔薇が咲いた夜。
赦しとは、誰のために咲くものなのか。
ミアルバという関係の“不在の毒”を見つめ直す、甘やかな一作です。